理事長挨拶

日本動脈硬化学会 理事長 島野仁

日本動脈硬化学会理事長
島野 仁

 この度、平田健一前理事長(神戸大学教授)の後を継ぎ、一般社団法人日本動脈硬化学会の第12代理事長を拝命しました筑波大学の島野 仁です。 今年、日本動脈硬化学会は設立からちょうど50年に当たる節目を迎えました。 今までの歴史を振り返る記念誌を発刊予定です。 2022年4月1日時点で会員2,370名からなるこの伝統ある学会の代表を務めさせていただくこと、大変光栄に存じますと共に、求められる重責に身の引き締まる思いです。
 日本は超高齢社会の先頭を走っていますが、健康寿命の延伸には動脈硬化性疾患の予防が重要な課題です。 日本動脈硬化学会では「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」や「メタボリック症候群の診断基準」の作成など、動脈硬化性疾患の予防、診断、治療に多大な貢献をしてきました。 コロナ禍や世界情勢の変化から先行きの見えない社会が待ち受けており、動脈硬化学会の学際性や集学性を発揮して社会にむけて果たせる役割はいろいろな意味で大きくなっていると思います。
 動脈硬化学は基礎研究と臨床研究、疫学研究が一体となって発展してきました。 基礎研究では、病理学やスタチンの発見と開発などリポ蛋白などの脂質代謝研究から始まり、さらには血管細胞生物学において独創的な研究が行われてきました。 臨床研究では、アテロームを病態とした心脳腎末梢にわたる虚血、梗塞性疾患に、血栓、血管炎などの病態、病理を加え、脂質異常症、糖尿病、高血圧、CKDなどのリスク管理、新しい診断法や治療法の開発に予防疫学的研究など、極めて多角的に重要な研究が行われてきました。 これらの研究成果を中心に、わが国でのエビデンスを集積し、動脈硬化性疾患予防ガイドラインを作成し、その普及に務め、大きな成果をあげています。 また国内にとどまらず、アジアを含め対象や活動の国際化を推進し、国際動脈硬化学会(IAS)やヨーロッパ動脈硬化学会(EAS)、アジア太平洋動脈硬化・血管疾患学会議(APSAVD)と連携して、アジア地域の動脈硬化研究を推進してきました。 本学会は学会誌としてJournal of Atherosclerosis and Thrombosis (JAT)を発刊し、動脈硬化学の最新の情報を発信してきました。 最近では、世界から年間約500件以上の投稿論文数があり、2021年のImpact Factorは4台に上昇、日本発の一流学術雑誌として胸の張れる発展を展開中です。
 動脈硬化に関する研究は20世紀に大きな発展を遂げその治療、予防が進められてきました。 今後、動脈硬化性疾患をさらに予防するために、さらなる病因や病態解明、新しい理念の創出、新規治療法、医療技術の開発など学術的な進展と並んで生活習慣に介入するチーム医療が重要です。本学会会員の若い力を結集しSNSなどあたらしい広がりのスタイルとツールの活用とともに、次代を担う若い人材の育成が求められます。 動脈硬化に興味のある医師のみならず、看護師、管理栄養士、臨床検査技師などの多くのメディカルスタッフにも動脈硬化学会に参加していただき、活発に学び、活動できるような場を提供したいと考えています。 学会の裾野を広くすることによって、“動脈硬化”にならないため国民ひとりひとりがWell beingである社会にむけての啓発活動を多方面から推進していきたいと思います。
 今後高齢化社会を迎えるにあたり、課題として認知症、フレイル、がん治療進展に伴うサバイバーに対して、老化も視点に入れた対策が重要です。 “人は血管とともに老いる”といわれますように、研究面では血管と細胞臓器障害を連動して考える必要があり、今まで以上に多くの関連する学会や研究者と連携が求められます。 また脂質代謝、動脈硬化は関連遺伝子と病因の連関が他の領域より明確で、遺伝子マーカーや核酸治療の発展が先んじて見込まれます。 ポリジェニックリスクスコアの視点で膨大な遺伝情報と患者情報を取り扱うバイオインフォマティクスについて、患者国民福祉を最優先に、医療経済的視点と社会の理解を踏まえた展開が必要と思います。
 歴史の変遷の中、学会も時代や社会に合わせた変化が必要であると誰しも考えますが、コロナ禍や世界情勢の激変に、本学会全体が温故知新の姿勢を失わず、しかし変化をおそれず対応していくことが喫緊の課題と考えています。 日本動脈硬化学会は、伝統的に多様で様々な専門家が集う学際的コミュニティであることが特徴であり強みの学会と思います。 学会活動は本来的には、学術、研究が本分と考えています。 本学会ひいては日本の研究力を互いに高め、新しい時代に沿った形でみなさんが楽しく競い、助け合い、学びややりがいを感じる場にするにはどうすべきか、皆さんの、特に若手の皆さんの意見を取り入れて新しい動脈硬化学会の将来像を考えていきたいと思っています。
 会員の皆様におかれましては、変わらぬ御指導、御支援の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

令和4年7月
島野 仁

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