日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.4 こんなに怖い受動喫煙より
例えば、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版に記載があるように、受動喫煙によって心筋梗塞などの冠動脈疾患を発症するリスクが1.23倍、脳卒中になるリスクが1.25倍、2型糖尿病になるリスクが1.22倍に上昇するといわれています。
また、受動喫煙によって肺がんになりやすくなったり、妊娠中の女性が受動喫煙に晒されることで生まれてくる子供の乳幼児突然死症候群のリスクが高まる、母体の受動喫煙と低出生体重出産・胎児発育遅延に関連があるといった報告もあり、受動喫煙の影響は能動喫煙同様に看過できません。
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.2 禁煙と動脈硬化より
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.2 禁煙と動脈硬化より
一方、喫煙本数が少なければ大丈夫というわけではありません。1日に1本だけしかたばこを吸わない人でも、非喫煙者と比較すると動脈硬化性疾患の発症リスクが高いことがわかっています。動脈硬化疾患を予防する、或いは悪化させないためには、たばこを完全に止めることが大事です。
日本動脈硬化学会 動脈硬化は怖い病気のはじまりパンフレットより
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.2 禁煙と動脈硬化より
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.2 禁煙と動脈硬化より
禁煙と同様、受動喫煙を避けることも重要です。海外からの報告では、飲食店などを含む屋内を全面禁煙とすることで、その地域の動脈硬化性疾患の発症が減少したことが報告されています。 禁煙をすると、一時的に体重が増加することがあります。体重増加は禁煙後3ヶ月以内で起こることが多く、1年で4-5kg程度増加することが知られています。これによって糖尿病や脂質異常症が悪化することもありますが、禁煙を継続していると2-4年でこうしたデメリットを超えて動脈硬化性疾患の発症リスクが減少してくることが知られています。
参考文献
1. 日本動脈硬化学会 動脈硬化は怖い病気のはじまりパンフレット
2. 日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.2 禁煙と動脈硬化
3. 日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.5 働く世代の禁煙を考える
4. 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.7 歯周病・歯科疾患と喫煙より
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.7 歯周病・歯科疾患と喫煙より
歯周病の結果として歯を失う割合も喫煙と関係しています。非喫煙者と比べて、喫煙者では歯を失うリスクはおよそ2倍です。喫煙者は、歯を失いやすいだけではなく、肌が黒ずんだり、白髪が増えるなど、実際の年齢よりも老けて見えるようになります。
歯周病を持っている人が治療を受ける際にも、喫煙が障害となります。喫煙を続けていると、歯周病治療の効果が半分程度に減少し、インプラント治療を受けた後の不具合の危険も2倍程度に増加します。 口の中にできるがんである口腔がんも、喫煙がその原因のおよそ半分を占めています。 喫煙と周囲の人の歯科疾患との関連も報告されています。親が喫煙をしている子どものむし歯のリスクは3.4倍に増加します。母の喫煙により、子の先天性口唇・口蓋裂が増加することも知られています。
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.7 歯周病・歯科疾患と喫煙より
J Periodontal 2000;71:743-51より作図
参考文献
1. 日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.7 歯周病・歯科疾患と喫煙
2. J Periodontal 2000;71:743-51
3. J Clin Periodontol 2023;50:276-285
依存が強くなって喫煙がやめられない場合、ニコチン依存症のスクリーニングテストTDS(Tobacco Dependence Screener)で5点以上あれば「ニコチン依存症」と診断されます。この場合、喫煙者は患者、喫煙は病気であり、禁煙治療が必要です。
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.5 働く世代の禁煙を考えるより
依存には身体依存と精神依存があり、禁煙治療を大別すると、身体依存に対しては薬物療法、精神依存に対しては心理・行動学的なカウンセリングが行われます。身体依存によるニコチンからの離脱症状(イライラしたり落ち着きがなくなるなど)は、禁煙開始後2-3日後に最も強くなり、5-7日後以降は弱くなりますが、下記に示すニコチン製剤やバレニクリンなどの禁煙補助薬は禁煙による離脱症状を軽減します。しかし、禁煙を継続するためには、禁煙補助薬の使用の有無に関わらず、禁煙に対する正しい知識の習得、禁煙への動機付け、禁煙のための環境整備(たばこを買わない、捨てる、喫煙所の近くに行かないなど)等々を組み合わせて多面的にアプローチすることが重要です。
日本動脈硬化学会 禁煙のすすめシリーズ No.3 禁煙の秘訣より
禁煙の方法には以下の3つがあります。
いずれの方法が適切かは本人の希望や依存の状況、併存疾患などによって決まります。また、禁煙補助薬を使用する場合は、どの製剤を選択するのか検討が必要です。それぞれの禁煙補助薬の特徴は下記の通りです。
実際には、自分一人で禁煙するのは非常に難しいと言われています。自信がない場合は禁煙外来に相談しましょう。
【ニコチン製剤】
急性期の心筋梗塞や脳血管障害、重篤な狭心症や不整脈などの患者さんには使用できません。
・ニコチンガム:薬局で購入します。喫煙したくなった時に使用すると、口腔粘膜からニコチンが吸収され、短時間で効果が発現します。ニコチンガムがやめられないニコチンガム依存症になることがあり、噛み方や使用量に注意が必要です。副作用に口内炎、喉の痛み、胸やけ、胃の不快感などがあります。
・ニコチンパッチ(皮膚貼付薬):薬局で購入するか、禁煙外来で医師から処方されます。1日1枚を皮膚に貼付することで、安定したニコチンの血中濃度が維持できるため依存になりにくいですが、即効性はなく突然の喫煙欲求には対応できません。副作用に皮膚の発赤、かぶれ、掻痒などがあります。
【非ニコチン製剤】
・バレニクリン(経口内服薬):ニコチンの代わりにα4β2ニコチン受容体に作用し、少量のドパミンを放出させ、離脱症状と喫煙欲求を緩和します。ニコチンのニコチン受容体への結合を阻害するため、バレニクリン内服中に喫煙するとタバコがおいしくないと感じます(喫煙による満足感を抑制します)。副作用に嘔気、不眠症、異常な夢、頭痛、うつ症状などがあります。めまい、傾眠、意識障害などがあらわれ、自動車事故に至った例も報告されているため、バレニクリン内服中の自動車の運転は禁止されています。
※バレニクリンは、2021年6月よりメーカーの都合で販売中止となっており、2024年2月現在、使用できません。2020年12月に禁煙治療用アプリ+CO(呼気一酸化炭素濃度)チェッカーが保険適応となりましたが、バレニクリン内服による治療に併用することが前提となっており、こちらも現在は使用できません。
新型たばこには、加熱式たばこと電子たばこの2種類があります。
加熱式たばこは、タバコ葉を粉末にして、グリセリンなどの有機溶剤を加えて紙状に押し固めたものに熱を加えて発生するエアロゾルを吸引します。これに対して電子たばことは、タバコ葉を原料とせず、ニコチンやプロピレングリコール、グリセリンなどが含まれる溶液が入ったカートリッジを加熱してエアロゾルを発生させて吸引するものです。
厚生労働省がおこなった令和元年 国民健康・栄養調査では、20〜40歳代の喫煙者の約半数が紙巻きたばこから切り替わった、あるいは、紙巻きと加熱式たばこを併用していることが分かりました。若者が新型たばこをきっかけにして喫煙を開始してしまうことが懸念されています。
1) 新型たばこから発生する有害物質
厚生労働省の調査では、加熱式たばこの中にも、高温で加熱する製品では紙巻きたばこと同程度のニコチンを含む製品もあります。紙巻きたばこと比較すると少ないものの、ホルムアルデヒドなどの主要な発がん物質も発生することがわかっています。
電子たばこも、ニコチン含有の有無に関わらず、エアロゾルに各種発がん性物質の発生が報告されています。
2) 新型たばこによる健康障害
1.急性肺炎・肺障害
紙巻きたばこの喫煙でも発症するタイプの急性肺炎になった症例が呼吸器疾患専門誌に複数報告されています。この事例は、新型コロナウイルスによる重症肺炎の治療で用いられたエクモを5日間使用して救命されています。
症例:16歳、男性。既往に小児喘息、甲殻類アレルギー。加熱式たばこの喫煙直後から咳、倦怠感、息切れが出現、2週間経過後救急外来を受診。
Aokage T, et al. Respir Med Case Rep. 2018;26:87-90より引用
2.発がんの可能性
加熱式たばこは紙巻きたばこと同じタバコ葉を使用していますから、たとえ量が少なくとも、加熱式たばこからも紙巻きたばこと同じ種類の有害物質が発生します。厚生労働省の調査では、ホルムアルデヒドなど明らかな発がん性物質が紙巻きたばこの10〜25%発生することが分かっています。発売から数年しか経っていないため、加熱式たばこによる発がん性の検証はこれからです。将来、「発がん性あり」と結論された場合のことを考えれば、今のうちに紙巻きたばこも加熱式たばこもやめておくことが得策です。
3.血管内皮障害
加熱式たばこの使用により、血管内皮機能が低下する(動脈硬化の初期変化)ことが報告されています。
4.電子たばこによる肺傷害
電子たばこも、ニコチン含有の有無に関わらず、エアロゾルに各種発がん性物質の発生が報告されている上、急性好酸球性肺炎、過敏性肺臓炎、巨細胞性間質性肺炎、びまん性肺胞障害、リポイド肺炎といった電子たばこ関連肺障害(EVALI)が海外で多数報告されており、死亡例も認められました。
5.受動喫煙による健康障害
紙巻きたばこの先端から立ち上る大量の副流煙は加熱式たばこでは発生しません(厳密にはゼロではなく、各吸引の最後に若干発生します)。しかし、加熱式たばこにも受動喫煙に相当する二次曝露があり、周囲の空気を汚染します。加熱式たばこを使用している人の口元をよく見て下さい。白いエアロゾル(霧・ミスト)を吐き出していることが視認できます。このエアロゾルは液体の微粒子なので気温で蒸発して小さくなり、光を反射しなくなるため口元から30cmほどしか見えませんが、特殊なレーザー光線を照射すると約3メートル先まで届いていることが分かります。
その後、ミストは目に見えないガス状物質に変化するため、独特のニオイで部屋の空気が汚染されるのです。大阪国際がんセンターの研究では、加熱式たばこを近くで使用されたことがあるかどうかを8,240人に尋ねたところ、977人(12%)が加熱式タバコのエアロゾルの二次曝露(受動喫煙)を受けたことがありました。そのうち、37%が「何らかの症状」を感じました(25%が気分不良、21%が喉の違和感、22%が眼の痛み、13%がその他の不快感)。普段、たばこの煙にさらされることが少ない非喫煙者が49%で最も多く、つぎに元喫煙者の41%、現喫煙者でも26%で「何らかの症状」が発生していました。
参考文献
1.厚生労働省令和元年国民健康・栄養調査
2.厚生労働科学特別研究 非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究
3. Respir Med Case Rep. 2018;26:87-90
動脈硬化性心血管疾患の主要な危険因子であるタバコは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の重篤な合併症(集中治療室入院、人工呼吸器装着など)、およびCOVID-19による死亡と関連していることが多くの研究で確認されています。COVID-19は血栓性血管合併症を引き起こすことが多いため、心血管疾患を患っている人々では、特に予後が悪いとされています。そのため、タバコ、COVID-19、心血管疾患は、密接に関係し、生命に影響を及ぼす悪循環を形成します。